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吉井和哉「BELIEVE」

「BELIEVE」は、吉井和哉の3rdアルバム『39108』収録曲。

ほか、ベストアルバムにも収録。

 

 

 ネットを見ていると、どうも3rdアルバム『39108』こそが

吉井和哉ソロとしての最高傑作なのではないかという意見を

そこそこ目にする気がする。

そしてその意見に関しては私もまったく同意するところである。

 

『39108』の、「人それぞれぞれのマイウェイ」で始まり

「BELIEVE」で締めるというアルバムの構成、

この2曲の味わい深さも然ることながら

いずれもドライブ中の情景を起点としている点も

ささやかながらアルバムに統一感を持たせる一因となり、

「美しいアルバム」だと個人的に思うポイントである。

 

この曲が扱うテーマは、一言でいえば

”過ぎてしまった全盛期に対する未練”

とでも言うことができるだろうか。

もっと言えば、これは吉井和哉のキャリアを貫くテーマでもあり、

THE YELLOW MONKEYの解散~再結成を語る上でも

外すことのできない部分だと思っている。

追いかけても追いかけても

逃げていく月のように

指と指の間をすり抜ける

バラ色の日々よ

THE YELLOW MONKEY「バラ色の日々」)

「バラ色の日々」「SO YOUNG」などに見られるこの感情は

やがてバンドの解散という結果にも繋がり、

彼らの再結成においても、今それとどう向き合うかということについて

アルバム「9999」の中でやはり触れられている。

過ぎてしまえば黄金時代は

いつだったんだろう

今がそれだったりね

THE YELLOW MONKEY「Changes Far Away」)

 

この曲においては、まさにダウナーど真ん中、

思い出の美しさと、それに後ろ髪を引かれて

なかなか振り切れない様子が詩的に描かれている。

それでも、まるで自分で自分に言い聞かせるように

I BELIEVE ME

とこの曲は何度も何度も繰り返す。

ニュアンスとしては、胸を張ってのI BELIEVE MEではなく

そうありたい、むしろそうでないとやってられない、

そんな思いの言葉なのではないだろうか。

 

話は変わるが、このアルバムの前作『WHITE ROOM』に

「CALL ME」という曲がある。

俺でよけりゃ必要としてくれ

という歌詞で語りかけている相手は、

実は神様とか死神とかそういう類である…という解釈は

吉井和哉本人の口からも語られている。

ひとつ前の「CALL ME」の段階では、言ってみれば

”いつ死んでもかまわない、必要としてくれる誰かに人生を委ねてもかまわない”

とでもいうような、投げやりと自己嫌悪の極致にあるような状態だった。

君を失ってしまった

俺はどうやら ガラクタみたいな車

「BELIEVE」においても、自己肯定感の低さは変わっていない。

それでもどうにか、せめて自分を信じて

どうにもならない とは思わずに

今を駆け抜けたい

と、前向きな方向に舵を取ろうとして

もがいている様が、貴くもあり美しくもあり、

名曲であると感じるゆえんでもある。

 

この願いがかなうといいな

ずっと自分を信じているんだ

(吉井和哉「ONE DAY」)

自分の血を愛せないと

人を愛せないと分かった

(吉井和哉「FLOWER」)

「自分を信じる」あるいは「自分を受け入れる」というテーマは

その後、少しずつよい方へと向かっていくことになるのだが

その嚆矢がこの曲なのではないかと私は思っている。

 

最後に音楽的な部分にも触れたいのだが

これほど裏拍、それも16ビートの裏を続けて刻む

メロディーラインは彼のキャリアでは相当珍しいと思う。

歌い方と、あとドラムの両方がややゆったりめ、うしろノリなので

そこまでリズミカルには聞こえないのだが。

「LOVE LOVE SHOW」の記事でも触れたように

吉井和哉は基本的に、歌詞を届けるという目的のもとに

歌を構築する、「歌謡曲的」な手法をとる人だと思っている。

なので、この曲のボーカルはその前提を保ちつつも

意欲的であり、ある種実験的でもある。

『39108』の次回作『Hummingbird in Forest of Space』(長い!)では

曲調こそマイナー調が多いものの、曲調的にはより幅広く

より意欲的であり、雰囲気もアッパーに転じている印象だ。

なにより、「これこそが俺の本性だ」とでもいわんばかりに

セックスソングの数が一気に増えている(笑)

 

そういうわけで、歌詞的にも音楽的にも

これから陰から陽へ、開けた方向へと進んでいくことになるのだが

この「BELIEVE」はその一歩手前、

夜明けを待つ静かな真夜中のような曲とでも言うことができるだろうか。

 

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